しまぐらし ~事務屋の日記~

霞が関で国家公務員を務めていた事務屋さんが、ひょんなことから島に移住していろいろと思うところを書き連ねていきます。

大規模災害が発生したとき、個人で支援物資を送るのは止めてほしい

大きな災害が起こるたびに「個人なら支援物資を送るよりもお金を送った方が良い」と言い続けているのですがなかなか改善されませんなー。

個人で物資を送ることの難しさやデメリットは以下の通り。
・ニーズにマッチしない(モノの不一致、適時性の不一致)
・被災地の負担が増える(仕訳人員の不足、物流リソースの不足)
・効率が悪い(モノ、情報、リソースは規模の経済が働く)
しかしまー、これらは全部理屈の話しなので、感情で動いてる人には全く通用しないということらしい。
ひとつづつ見てみよう。

・モノの不一致
個人やご家庭で「被災地が困っている」という善意から、我が家に備蓄してある防災セットをそのまま段ボールに詰め込んで送ったりする人が多い。
しかしよく考えてほしいのは、受け取り側の事情です。
家庭用の防災セットが100個届いても、そのまま避難所にお届けする訳じゃないのです。
食べ物は食べ物(米、乾パン、味噌汁など種類ごとに)、水は水、コンロはコンロ、懐中電灯は懐中電灯、ラジオはラジオに仕訳するんですよ全部。その仕訳をするのは被災地の人です。
だったら、食べ物なら食べ物をドーンと送ってほしい。水なら水をドーンと。

この「ドーン」の規模も分かりづらいところなので、飲み水を例にして考えてみましょう。

例えばあなたの住むマンションに100世帯入っているとして、平均して3人で住んでいると仮定します。すると、300人分の水が必要。
一人一日当たり2リットル必要と考えたら、マンション全体で一日に600リットル欲しいということになります。
ペットボトルの水は1ケースで12リットル入ってますから、一日に50ケース欲しいですよね。ということは、断水が一週間続くとしたら、350ケース欲しい。
重さで言えば、ほぼ4.2トンの水ということになるわけですから、4トントラック一杯という感じです。

自治体の人は、そういう規模で動いてるのに、個人やご家庭からペットボトル何本という支援物資が送られてくるのは、はっきり言って迷惑。だからやめてほしいと思っているのです。

・適時性の不一致
どこそこのだれそれがコレを欲しがっている、という情報をテレビやネットで見聞きして、送る。
届くころにはもう足りているし、むしろその物資で集積所が溢れかえっていることも多い。
これが水とかコンロならいいけれども、「意外とコレが足りていません」みたいな情報が流れると、感度の高い人たちが一斉に送り付けるので、あっという間にゴミの山になりがちなので、報道する人にも気を付けてもらいたいものです。

・仕訳人員の不足
上記の通り、思い付きで報道して思い付きで送りつけてくるので、仕分けするだけで精一杯になりがち。
しかも、現場は仕訳すれば終わりということじゃなく、仕訳た後で避難所や被災世帯に送り届けないといけない。
モノだけじゃなく、被災状況をとりまとめたり、いろんなゴタゴタが山積みになってそもそも人手が足りない。
そんな状況で、たかが善意の仕訳にリソースを振り向けるのって無駄ですよねえ。

・物流リソースの不足
仕訳人員と同様に、物流に関わるあらゆるリソースが足りない。
そもそも、道路が足りない。
全国からいろいろなモノが送られてくるので、トラックで道路が渋滞する。
復旧作業に必要な重機の移動もあるし、もちろん緊急車両も道路を使うのに。


これらような理由から、個人なら物資よりお金を送るべきだと思っております。
そもそも、水なんて自治体とボトラーが災害協定を結んでるから個人が心配しなくても大丈夫だし。
それでも個々の被災世帯まで届いていないのだとしたら問題だけど、そういう場合は個人が送ろうとしても届きません。物流の問題が発生しているのが主な原因です。